グレアムに学ぶ「賢明なる投資家のインフレ対策」

インフレの話題をたびたび耳にしますが,資産バリュー投資家は、インフレに対してどのように向き合ったら良いのでしょうか?

この点で、ベンジャミン・グレアムは『賢明なる投資家』で1つの章を割いて、バリュー投資家がインフレにどのように対処したら良いのか論じています。

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そこで、この記事では、グレアムが教えるインフレ対策を確認していきます。

投資家はインフレを予期すべきか?

(1915-1970年における5年ごとの物価水準を振り返ったうえで)まず気づくのは、過去にインフレはあった―それもたくさん―ということである。最も高いインフレ率は1915~20年までの五年間で、人々の生活費はほぼ二倍になった。これは1965~70年にかけての15%の上昇に匹敵する。この間に物価の上昇・下落の割合はさまざまだが、下落した期間が3回、上昇した期間が6回ある。これを見た投資家は、継続的または周期的なインフレが起こる可能性を考えざるを得ない

ベニャミン・グレアム『賢明なる投資家』

1910年代、1960-70年代と激しいインフレ期が繰り返されていることを考えると、世界的なインフレを予期すべきであると言えそうです。

インフレと株価の関連性は?

この点について、われわれは断言できる。インフレ状態と普通株の株価・収益変動の間には密接な関係はない。良い例は、最近の1966~70年までのことである。この間、生活費は22%上昇し、5年ごとに見た場合、1946~50年の期間以降で最も目覚ましいものだった。しかし株式収益や株価は1965年以来、全体的に落ち込んだ。それに先立つ5年間の記録では、生活費があまり上昇しなかったのに対し、株式収益はめざましく上昇するというような全く逆の減少が起きている。

ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』

一般的に、株式投資はインフレ対策になる、と語られます。しかし、グレアムはこの見解を一蹴しています。

そもそも企業収益の増加はインフレによってもたらされるのではなく、企業が収益を再投資し続けていることによってもたらされているため、インフレと株価は無関係であるという主張は納得できます。

かえって、インフレにより、賃金の上昇と追加投資の必要性を生み、収益性の低下と株価の低迷をもたらすことも多くあるわけです。

インフレ対策としての金投資は有効か?

過去35年間(1935-70年)、取引市場における金の価格は1オンス35ドルから、1972年には48ドルに、つまり35%しか上昇していない。しかし、この間、金の保有者は投下資本から配当収益を得られなかったばかりか、保管のために毎年いくらか支出をしなければならなかった。物価は上昇したにせよ、それだけのおカネを銀行に預けておいたら利息が入り、金投資よりもうまくいったことは明らかだ。

ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』

一般的に、金はインフレヘッジになると言われています。しかし、グレアムは、

  1. 金はインフレ率より低い上昇率に甘んじている
  2. 配当収益を得られない
  3. 保管費用を要する

といった3つの理由から否定的です。

インフレ対策として実物投資は有効か?

ダイヤモンド、名画、初版本、希少な切手や硬貨などといった、長年市場価値が上がり続けるような貴重品もわずかだがある。しかし、これらの多く、いや恐らくほとんどの場合、その相場価格には人為的、または不安定な、さらには非現実的な要素があるようだ。・・・われわれはその分野に明るくないことは承知している。読者のなかでもその分野を安全に、しかも楽々と渡りきる人はほとんどいないだろう。

ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』

グレアムは、実物投資についても否定的です。

インフレ対策として不動産投資は有効か?

不動産所有に専念することも、対インフレ策として十二分に防御となる堅実な長期的投資と考えられてきた。しかし、不幸なことに不動産価値もまた、立地や支払いなどの深刻なミスなどによる多くの不確定要素がある。・・・つまるところ、いろいろなものに手を出して投資をすることは、ごく一般的な投資家には不向きなのである。・・・われわれが投資家に言えるのは、「投資をする前に、それが自分のおカネであることを肝に銘じておきなさい」ということである・

ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』

このように、不動産投資は、ごく一般的な投資家にとってハードルの高いジャンルであるため、グレアムは否定的です。

【結論】バリュー投資家の行うべきインフレ対策とは?

将来のことは分からないのだから、投資家は手元資金すべてをひとつの籠に突っ込んではいけない―近年、空前の収益をもたらしているからといって、資金を債券だけに注ぎ込むのもよくないし、インフレが今後も続く疑念があるにもかかわらず、株式だけに注ぎ込むのもよくない。

・・・大規模なインフレが起こる可能性はあるので、投資家はそれに対するある種の保険をかけておかなくてないけない。株式がそのようなインフレに対して十分な保険となるという確証はどこにもないが、債券よりは確かである。

・・・防御的な投資家は自らのポートフォリオのなかに相当量の普通株を組み込むべきである。われわれがそれを2つの悪弊の中でもましな方だと思っていても、である―大きな方の悪弊とは、すべてを債券で保有するという危険な行為のことである。

ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』

グレアムの主張するインフレ対策とは、基本原則である、株式と債券への50:50(25-75%の間)の投資を継続することになります。

しかし、一箇所だけ、個人的に異なる見解を持っているのは、金投資に対する見方です。

たしかに、グレアムが指摘するとおり、1930年代から70年頃まで、ゴールドは大きな値上がりを見せることはありませんでした。

しかし、1975年2月から2023年5月までの48年間に183ドルから2,000ドルに値上がりし、年間平均利回りは38.6%に達しています。

したがって、過去50年間について言えば、グレアムが指摘していた、①金はインフレ率より低い上昇率に甘んじている、という指摘は当たりません。この上昇率は②配当が得られないという弱点を補って余りあるものです。また、現在は③保管費用を要しないETFなどのペーパーゴールド商品も充実しています。

したがって、個人的には、ゴールドの一定のインフレ対策効果を期待して、金にも投資しています。

いずれにしても、株価上昇に対する過度の期待を持つことなく、これまで以上に安全域の広い銘柄への分散を心がけることこそ、インフレ懸念が強まっている今日に取るべきインフレ対策と言えるのかもしれません。

今回もお読みくださり、どうもありがとうございました。

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