ネットネット株投資戦略のバックテスト結果

ネットネット株への投資を行っていると市場の暴落時に株価が下がったり、市場の上昇時に株価の反応がなかったりして、動揺することがあります。

そのような時でも、ネットネット株への投資を続け利益を上げてゆくために、この戦略のバックテスト結果を把握しておくことは役立ちます。

そこで、今回の記事では、ネットネット株投資戦略のバックテスト結果が示されたレポートをご紹介したいと思います。

バックテストが行われている論文:

ご紹介するのは、2010年に、Tobias Carlisle,Sunil Mohanty,Jeffrey Oxmanという3人の研究者が執筆した Ben Graham’s Net-nets: Seventy-Five Years Old and Outperforming ”という論文です。

この論文の中で、執筆者は、1984年から2008年までの24年間にわたるネットネット株戦略のバックテストを行いました。

米国株を対象にしたものではありますが、幾つかの好景気と不景気を含む長期間のバックテストとして貴重な示唆を含んでいます。

英語を読める方はぜひ原資料に当たっていただきたいと思いますが、ここでは簡単にその内容をご紹介します。

ネットネット株の定義:

この論文でいうネットネット株とは次のような銘柄です。

ネットネット株とは、時価総額が正味流動資産(Net Current Asset Value,NCAV)の2/3未満である会社です。

ここでいう「正味流動資産」は、

正味流動資産=流動資産-(負債+優先株式)

という数式で表されています。

この条件に適合するネットネット株数は毎年変化しており、 最も少ない1984年には13銘柄だったのに対し、最多を記録した2002年は152銘柄でした。

出典:“ Ben Graham’s Net-nets: Seventy-Five Years Old and Outperforming ”

このネットネット株に該当するすべての株式が12月31日に購入され、1年後に売却されると想定してバックテストが行われました。

バックテスト結果

出典:“ Ben Graham’s Net-nets: Seventy-Five Years Old and Outperforming ”

上記の図は、ネットネット株ポートフォリオと、NYSEアメリカン総合指数の月次リターンを比較したものです。

NYSEアメリカン総合指数は、NYSE Americanが運営する小型株の株式市場(Small Cap Equity Market)の全体動向を反映する指数となるため、小型株が対象となりやすいネットネット株戦略と比較する上でもっとも適切な指数と言えます。

このバックテストの結果、ネットネット株ポートフォリオの平均月間収益は2.55%でした。

一方、NYSEアメリカン総合指数の月次リターンは1/3程度の0.85%に留まりました。

毎年、ネットネット株ポートフォリオは、NYSEアメリカン総合指数をはるかに上回る22.42%という優れたパフォーマンスを発揮しています。

ネットネット株ポートフォリオがNYSEアメリカン総合指数にアンダーパフォームしたのは、1989年から1991年までの1期間に過ぎませんでした。

また、市場が暴落した2007-2008年の期間では、ネットネット株の下値の固さを確認することができます。

ネットネット株ポートフォリオが高収益を上げた3つの理由

ネットネット株ポートフォリオが高収益を上げた理由として、執筆者は3つを要因を上げています。

  1. 株式の変動リスク
  2. 時価総額が小さいこと
  3. 流動性が乏しいこと

しかし、この3つの理由だけではネットネット株の高い収益性を説明し尽くすことはできません。

米国以外のネットネット株投資の優位性

James Montierは、“Graham’s Net-Nets: Outdated or Outstanding?”という論文の中で、1985年から2007年までの23年間の全世界のネットネット株、および地域ごと(米国・ヨーロッパ・日本)のネットネット株をバックテストしています。

この調査によると、全世界のネットネット株ポートフォリオの年間平均リターンは35%となり、市場全体の17%をはるかに上回っています。

地域ごとに見ても、日本のネットネット株ポートフォリオの平均リターンは21%で、日本市場全体の6%を大きく超過していますし、ヨーロッパのネットネット株も超過リターンを出しています。

このようにネットネット株の優位性は、米国株だけでなく、他の先進国株式でも確認することができます。

まとめ:

ネットネット株投資は、ベンジャミン・グレアムが80年以上昔に提唱した戦略であり、現代における有効性を疑問視する声もあります。

しかし、今回ご紹介したバックテストによれば、シンプルで機械的な投資戦略でも確かなリターンを上げられることが分かります。

ちなみに、当ブログをはじめてからの個人的なネットネット株ポートフォリオの月間平均リターン(税引後・配当込)は1.53%、年間平均リターンは(18.36%)であり、市場全体の月間平均1.08%、年間平均13.02%を超過しています。

こうしたデータ的裏付けを知っているなら、多少の暴落でも動揺せずに、この投資戦略を続けることができるのではないでしょうか。

今回もお読みくださり、どうもありがとうございました。

2 COMMENTS

my20001

どうもこんばんは。
興味深い記事をありがとうございました。

>そのような時でも、ネットネット株への投資を続け利益を上げてゆくために、この戦略のバックテスト結果を把握しておくことは役立ちます。

私は正直、過去の結果は参考にしかならないと思っています。
競馬でいうと「足の速い馬が勝ちました」と言っているようなもので、では次のレースは?となると、なかなか予想通りにはいきません。
世の経済学部教授の皆さん全てが、大富豪になっていないのがそれを証明していると思います。

>このネットネット株に該当するすべての株式が12月31日に購入され、1年後に売却されると想定してバックテストが行われました。

実際の投資期間からすると、やや短い印象を受けました。

>こうしたデータ的裏付けを知っているなら、多少の暴落でも動揺せずに、この投資戦略を続けることができるのではないでしょうか。

まさにその通りだと思います。

どの銘柄に投資しても、その時点で、市場で適正な値付けがされているなら、リターンも似たり寄ったりになるはずです。
ただ、ネットネット株(等)は「一定以上に、下落しにくい(気がする)」ということで、そこのところの「安心」を買っているようなものではないかと思います。(「安全」ではありません。)

…恐らく、投資効率なんかを考えた究極的な正解は、(無機質に)国際的に分散されたインデックス投資なんだろうと思っていますが、その中でもアクセスしやすい日本株セクターの投資については「自分の一工夫を入れたい」という想いで、割安株探索をしてしまうのだろうなぁと思っています

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Siegel

いつも鋭いご指摘をありがとうございます。

ご指摘のとおり、過去のバックテスト結果は、
あくまでも「参考」程度に考える必要がありますよね。

昔、システムトレードを行っていたことがありますが、
過去に右肩上がりの大きなリターンを稼ぎ出した戦略を実戦投入したところ、
参入した時点から右肩下がりになる、という痛い目に何度も遭ってきたことを思い出しました。

ネットネット株投資の場合、ある程度堅牢なロジックに裏打ちされているので、
そこまでひどいことにならない、と思いますが、
将来のことは誰にも分かりませんので、
「参考」程度に考えておく必要があると思います。

1年間という期間も、おっしゃるとおり短いですよね。
別の調査では、1年ではなく2年で売却したほうがリターンが良いようなので、
この点については、私自身は危惧していません。

ネットネット株投資は、「安心(安全ではない)を買っている」という表現は、
言い得て妙だと思いました。

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