最近、ブログ読者の方からのご質問に基づく記事が続いていますが、本日もご質問に基づくテーマです。
先日、次のようなご質問をいただきました。
日本乾溜工業(1771)は優先株式を発行していますが、これはどの程度、企業価値を棄損するものなのでしょうか?
このようなご質問は、私自身にとって大変勉強になるので、大変ありがたいです。
この記事では、優先株の希薄化によって、ネットネット株の日本乾溜工業(1771)の割安度はどのような影響を受けるのか、考察しています。
目次
そもそも優先株とはどんな株式のことなのでしょうか?
優先株とは、種類株式の一種で、他の株式に比べて優先的地位を持っている株式のことをいいます。多くの場合、配当(剰余金)や会社清算時の残余財産を普通株より優先して受ける権利を有する一方、議決権に一定の制限が付された株式のことをいいます。逆に、普通株よりも劣る地位の株式を劣後株といいます。一般的に、優先株が上場されるケースは少なく、事業会社に対する支配規制のある金融機関などが引き受けるのが通常です。
出典:SMBC日興証券「初めてでもわかりやすい用語集」
したがって、優先株をもつ投資家から見ると、議決権の制限などがあるものの、配当金が多く、倒産した際のリスクが低い点が大きな魅力となります。
一方、一般投資家にとっては、優先株式は潜在株式として希薄化をもたらす可能性があるものとして評価をしなければならないことになり、面倒な存在です。
日本乾溜工業の有価証券報告書には次のような記載があります。
この記載から、
- 優先株式が200万株発行されていること。
- 行使価額の上限が138円であること。
- 10億円の債務の株式化として、第三者割当により発行されたものであること。つまり、額面は、10(億円)÷200(万株)=500(円)であること。
などが読み取れます。
過去の有価証券報告書によると、この優先株式は2005年3月28日に福岡銀行に対して発行されたものであることが分かります。
①優先株の存在は無視する。
1つ目の方法は、優先株の存在を無視してしまうことです。
福岡銀行は、日本乾溜工業のメインバンクであり、第2位の大株主です。
そのような関わりの深い銀行が、日本乾溜工業のような優良企業の優先株式を普通株式に転換し、市場に放出するとは考えにくいものです。
想定しにくいリスクを無視する、というのも一つの選択肢かもしれません。
この場合、正味流動資産を調整することなく、ネットネット株指数を算出できます。
正味流動資産は35億1500万円となります。
時価総額20億5600万円を正味流動資産35億1500万円で割ったネットネット株指数は「0.58」であり、立派なネットネット株ということになります。
しかし、安全域を広く確保しようとするネットネット株投資家であれば、次のいずれかの方法により、優先株式をしっかりと評価しようと思うことでしょう。
②額面で評価する。
2つめの方法は、優先株式の額面500円を支払って消却したものとして計算してしまうことです。
この場合、500(円)✕ 200(万株)=10億円を現預金から控除して、正味流動資産を算出することになります。
この場合、正味流動資産は25億1500万円になります。
時価総額20億5600万円を正味流動資産25億1500万円で割ったネットネット株指数は「0.81」となり、ネットネット株とは言えないことになります。
③普通株式に転換したものと評価する。
3つ目の方法は、優先株式を普通株式に転換したものとして評価してしまうことです。
日本乾溜工業の優先株式の転換価額は上限は138円です。
したがって、200万株(優先株)✕ 500円(額面)÷ 138円(転換価格)=724万6376株(普通株)が普通株式として評価されることになります。
つまり、既存の510万2000株に724万6376株を加えた1228万6614株が普通株式ということになります。
この結果、正味流動資産に変動はありませんが、時価総額が大きく膨らむことになります。
時価総額は49億5200万円に達し、ネットネット株指数は「1.40」であり、ネットネット株には程遠いものになります。
これら3つの評価方法をまとめると、次のようになります。
評価方法によって、割安度合いはまったく異なるものとなります。
個人的には、優先株式を保有するのがメインバンクの福岡銀行であることを考えると、③普通株式に転換することまで評価する必要はないように思います。
一方で、10億円の債務は存在していたわけですから、その債務の株式化したものである優先株式を一切無視してしまう①の方法も不適当です。
したがって、②の優先株式の額面評価をすることが最も良いのではないか、と考えています。
今後のネットネット株ランキングでは、日本乾溜工業は②の方法で計算してゆきたいと思います。
もちろん、この判断は、それぞれの投資家によって異なって当然であり、正解はないものです。
しかし、こうした点も考えて投資していくなら、腰を据えた長期投資を行ってゆく助けになると思います。
今回もお読みくださり、どうもありがとうございました。