ストックオプションの希薄化を考える―ムゲンエステート(3299)の場合。

ゴールデンウィークが始まりましたが、屋外に出ることもできず、これまでに経験のない連休です。こういう休みを有意義に過ごしてゆきたいものです。

さて先日、ブログ読者の方から、

ムゲンエステート(3299)はストックオプションを発行していますが、これはどの程度(希薄化等で)影響があるのでしょうか?

という鋭いご質問をいただきました。

普段、私の思考から抜け落ちている大切な点を思い起こすことができ、このようなご質問をいただけるのは、とてもありがたいことです。

まったく個人的なことですが、この「ストックオプション」には,苦い思い出があります。

むかーし若かりし頃、無謀にも(旧)司法試験を受けていたころ、「商法」の論述式で「ストックオプション」に関する問題が出たことがありました。

しかし、「商法」の勉強が進んでおらず、出題意図がまったく理解できず、とんちんかんな回答をし、最低評価を得たという苦い記憶が、「ストックオプション」という文字を見るたびに思い出されるのです。

さて、そんなどーでもいい昔のことは置いておき、この記事では、ストックオプションによる希薄化がムゲンエステートの割安度にどのような影響を与えるか、個人的な考えを綴ってゆきたいと思います。

ストックオプションについては理解が不足していることも多いので、誤っている箇所がありましたら、ご指摘をよろしくお願いします。

まず、ストックオプションとは?

そもそも「ストックオプション」とは何のことでしょうか?

ストックオプションとは、取締役や従業員に対して、一定の安い株価で自社の株式を購入する権利を与えること。

取締役や従業員は、一定期間が経過した時点で、当初の約束価額で株式を購入し、株価が上がった時点で売却すれば、その取締役や従業員に大きな利益が舞い込んでくるという仕組みです。

取締役や従業員の側からすると、会社の業績向上による株価の上昇が、自分たちの利益に直接結び付くことから、業績向上意欲に結びつく、という大きなメリットがあります。

たとえば、上の図のようなA社の場合・・・

①A社の株価は1株500円。このとき、A社は、頑張っている取締役の甲さんに対し、今後10年以内なら1株500円でA社株1,000株を与えることを約束します。(権利付与)

②甲さんはA社に対し、権利を行使して、この時のA社株の時価は1株1,000円ですが、A社からA社株を1株500円で取得します。(権利行使)

③甲さんは株式市場で、A社株を1株2,000円で売却します。(株式売却)
甲さんは、500円で譲り受けた株式を2,000円で売却したので1株あたり1,500円、合計1,500,000円の利益を得たことになります。

このように甲さんにとっては1,500,000円の利益を得られ、万々歳です。

また、A社にとっても、甲さんが頑張ってくれたおかげで業績が上がったので御の字でしょう。

ですが、他の株主にとってはどうなのでしょうか?甲さんに与えられた1,000株が市場に出回る結果、株式が希薄化し、株価の下落要因となるのではないでしょうか?

しかも、発行株式が増加することにより、時価総額が上昇し、ネットネット株の割安度も失われることになるのではないでしょうか?

ムゲンエステートのストックのオプションはどんな内容?

ムゲンエステート取締役会は、2015年4月以降、7回にわたってストックオプションを決議しています。

このうち、Ⅱのストックオプションは払込金額が1,275円で、現在株価454円よりもはるかに高い価格です。そのため、権利者が権利行使し株式売却しても損失を出すだけですので、現時点で希薄化の問題は生じないでしょう。

また、Ⅱを除く6回分のストックオプションは、「取締役又は監査役の地位を喪失した日のいずれか遅い日の翌日から10日間に限り」行使できるものと定められており、退職金目的で設けられた制度であるようです。

そこで、ムゲンエステートの場合、希薄化の問題が生じるのは、権利付与者が退職してしまい、下記の121,200株の新株が発行された時になります。

希薄化により、ネットネット株の割安度はどうなるか?

仮に、権利付与者が一度に退職してしまい、121,200株の新株が発行されたとします。

その場合、希薄化により、ネットネット株の割安度はどんな影響を受けるのでしょうか?

(1)時価総額が増える。

現在の発行済株式総数は、2436万1000株です。この株式数に4月28日の終値454円を掛けた時価総額は110億5989万4000円となります。

仮に121,200株の新株が発行された場合、発行済株式総数は2448万2200株となり、時価総額111億1491万8800円となります。

つまり、時価総額が5500万円余り増えることになります。

(2)ネットネット株指数は上昇する。

最新の正味流動資産は186億9500万円です。現在の時価総額110億5989万4000円をこの正味流動資産で割った、現在のネットネット株指数は「0.591」となります。

新株が発行されたとしても、正味流動資産は変わりません。(厳密には現金が払い込まれるので、僅かに増えますが、あまりに微小であるため、ここでは考えません。)

したがって、新株発行後の時価総額111億1491万8800円を正味流動資産186億9500万円で割ったネットネット株指数は「0.594」となります。

つまり、ネットネット株指数は「0.591」→「0.594」に僅かに上昇することになります。

(3)まとめ

このようにムゲンエステートのストックオプションが同時に行使された場合、ネットネット株指数は僅かに上昇し、割安度が失われることになります。

結論

ムゲンエステートの場合、ストックオプションによる希薄化により、ネットネット株指数が僅かに上昇しますが、その影響を考慮する必要はなさそうです。

ムゲンエステートのストックオプションは、退職金目的のために設けられた制度であり、一度に行使される可能性も少ないでしょうし、総発行済株式の0.5%にすぎません。

とはいえ、こうしたリスク要因を一つずつ消して資金を投じることが、平常心で長期投資をする上での秘訣かと思います。

今回もお読みくださり、どうもありがとうございました!

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